思いやりの使い道っていろいろあるよね♪

「お父さんはね
じいちゃんがいつ倒れるか分からないから
家に泊まってあげることにしたの。」

１年２ヶ月前
夫が突然家に帰らなくなった理由を
苦し紛れに私は子供達にそう言った。

嘘をついたのだ。

それ以来子供達は
誰一人私に夫が戻らない理由を
１度たりとも聞いては来ない。

なぜ？
どうして？
なにがどうなったの？

聞きたいことなんて
たくさん有るだろうに。

私への思いやりか
聞かれた私が返答に困らないように。

私たち夫婦はなんて最低な親だろう。
子供にこんな思いをさせるなんて。

夫があんなことになる前に
なぜ私はもっと早く
夫の変化に気がつかなかったのだろう。

夫があんなことになってからでも
私がもっとうまく夫を取り戻す
努力をしていればこんなことには
ならなかったのではないのか・・・。

そんな後悔の念に苛まれながらも
私は今できる精一杯のご馳走を作った。

３人の子供達の好きな料理を
一生懸命作った。

今の私には
子供達のために出来ることは
これしかないのだ。

そんな料理で父のいない
初めての年越しの寂しさは
消せるはずもないのに。

夕方６時を回った頃
２階の部屋にいる子供達を呼んだ。

「ご飯の用意ができたよー！」

できる限りの明るい声で。

すぐに３人は下りてきて
テーブルに着いた。

いつも夫が座るその席だけが空いている。

４人だけの初めての年越し。

去年来た父が今年は来ないことなど
誰一人として話題には出さない。

私が言わなくても
子供達は子供達なりに
ちゃんと分かっていたのだ。

もう父がこの家に
自分たち家族のこの家には
帰って来ないであろうと言うことを。

「お母さんこれおいしいよ！」

そう言って笑う次女の笑顔が寂しそうで
私の胸に突き刺さった。

これから私たち４人は
いったいどうなるのだろう・・・。
進学させてやることはできるのか・・・。

心ではそんなことを考えながら

「そう？良かった。
みんないっぱい食べてね！」

そう言って私も笑った。

それからいつもの夜の宴より賑やかに
４人で食べて笑って話した。

父がいない
という現実を笑顔でごまかすかのように。

夫が望むように
「父は私たちを捨てて
新しい家族達と今夜も一緒にいるの。」

そんなことを今
子供達に告げるならいっそ
私は消えて無くなりたい。

去年までと変わらないのは
テレビに映る紅白の華やかな
映像だけだった。

年が明けたが
今年は義父から子供達に
「お年玉を渡したいから・・・」
のお誘いは無かった。

私は毎年
お年玉を楽しみにしている
子供達の気持ちを思うと苦しかった。

夫からのお年玉だけではなく
祖父からのお年玉までもが
今年は無いと知ったら
子供達はどう思うだろう。

私はお正月用にと
前もって下ろしておいたお金を
昨年買ったお年玉袋に入れ
子供達に渡した。

袋には毎年書いてある
「じいちゃんより」の文字を入れて。

「じいちゃんがね。
今年はお正月家にいないから
みんなに渡しておいてって
お年玉くれたよ。」

私はそんな嘘をついた。

「うわー助かった！
私欲しい服あったんだよね！」

長女が嬉しそうにそう言って笑った。

３人とも嬉しそうに笑った。

大学入試センター試験まで
あと１３日。

進学費用について
夫からの連絡は未だ無い。

連絡の無い理由が間もなく判明するのだが
このときの私はまだ何も知らない。

その理由を
知らないままでいられたら
どんなにか良かっただろうか。

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